本日のテーマは「こども保険」です。
(いつにも増してマジメにどうかと思ってるので、今回はなるべく毒なし煽りなしで。。)

「こども保険」は、小泉進次郎氏ら自民党若手議員により提言されている政策案で、現行15%ほどの社会保険料率に、まずは0.1%の上乗せをして幼児教育・保育の負担軽減、ゆくゆくは0.5%まで引き上げて幼児教育・保育の実質無償化を図る、というアイディアです。

この「こども保険」については、本来的には「保険」制度にはなじまないとの財源のあり方に関する批判があり、これはこれで論じるべき点は確かにあります。

・理解に苦しむ「こども保険」
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakatadaigo/20170330-00069327/

しかしながら、それなら消費税をさらに上げてやるといっても、それはそれで政治的に難しいとの現実的な判断も確かになあというところで、個人的にはまあ社会保険でやるのもありかな、と思っています。

むしろ、問題だと思うのは集めたお金の使い方です。 
下記引用にあるとおり、社会保険料を上乗せしてせっかくお金を集めたところで、その使い道はというと未就学児童のいる家庭に対し、「一律月額5000円から2万5000円の手当上乗せ」としてばら撒く、ただそれだけです。なぜ現金給付なのかという点については、下記のような理屈を述べているものの、色んな観点でまったく意味不明です。

・小泉進次郎氏が「こども保険」を強く推す理由
http://toyokeizai.net/articles/-/169713

「保育園建設やバウチャー(保育園などの利用券)の配付なども議論した。ただ、われわれは昨年出した最初の提言で「レールからの解放」を掲げ、多様な生き方ができるように政治が合わせていくという大きな方向性を打ち出している。そのため、使う人の自由度の高い児童手当という現金給付を代表事例に挙げることにした。世の中には自分で育てたいという人もいるだろう。児童手当をベビーシッターの代金に使う人や、この手当があるから私は専業主婦になるという人も出てくるかもしれない。そういう人たちも含めて応援したい。」


少子化対策?
引用外の部分で、「われわれはまず少子化対策をどうするかから議論をスタートしている」とあるのでうが、月額5000円~2万5000円の手当を上乗せすれば子供を産もうとする人が増えるのでしょうか?

少子化の直接原因としては出産以前に未婚率が上昇していることが大きな要因なので、保育園の数を増やそうが大して効果はないと個人的には考えていますが、仮に保育園の数が足りないことが問題としたところで、そもそも園にこどもを入れられないことが問題であって、多少の手当もらったところで意味がありません。

しかも、「この手当があるから私は専業主婦になるという人も出てくるかもしれない」というのは、公的資金を使って支援すべき意義があるんでしょうか?(保育園に通わせる共働き夫婦のみを対象とすると不満がでるから一律にとの背景事情かと思われますが、少しいい加減すぎやしませんか?)


※参考記事
保育園にこそバウチャーを ~健全な民営化議論 ~ 

 http://gogotomo.ldblog.jp/archives/24992853.html

少子化対策・「第三子以降に特化」は裏をかえせば正しい。(しかし若年層の貧困対策が一番の課題では?)

 http://gogotomo.ldblog.jp/archives/40116227.html



教育投資?
これも先の記事からの引用で前後しますが、記事中ではこのようなことも述べられています。

「最近の研究では、特に幼児教育への投資効果が高いことがわかっている。今ある職業が2030~40年には半分以上なくなってしまうといわれる中で、スキル的な能力より、変化に対応できるような強い精神力と柔軟性が大切だ。そのために幼児教育・保育が重要な役割を担うと指摘されている。」

こうした考え方から就学前教育への支援に特化するとのことなのですが、その中身は前述したとおり、単なるバラマキです。なぜ高等教育への支援ではないのか?という問いに対しては、

「国内の大学改革をせずにタダにしたら、形を変えた大学への救済補助金だ。それはやるべきではない。高等教育が大事なのはみんな同感だが、国民の税金を使ったりさらなる国債発行をしたりして無償化を行うというなら、まずは順番として国民から理解されるような大学の質の強化や改革を行わなければならない。それもせずにみんなで大学に行くというのは、日本はそんな社会でいいのかと思う。順番が違う。」

と述べられています。

しかし、保育園幼稚園での義務教育化を図るでもなく、また幼児教育・保育によって「強い精神力と柔軟性」が育まれるとの実証もなければ具体的カリキュラムも検討されていない中で、「この手当があるから私は専業主婦になるという人」も含めて支援するというのは、日本はそんな社会でいいのかと思う。順番が違う。

すでに高等教育の在り方については議論が進められており、大学の淘汰や質的改革と並行して高等教育の無償化を図ることの方が、「今ある職業が2030~2040年には半分以上なくなってしまう」という問題意識に対して、政治としてストレートに向き合うべき課題じゃないのかと個人的には強く思います。


「格差」に対する目線の欠如
最後、バラマキ支援の政策的効果や意義とは少し違う話になりますが、今回の話をめぐっては、様々な面での格差問題に対する問題認識が欠けていることが気になります。

(格差1:教育格差)
そもそもこの「こども保険」は、高等教育を念頭においた教育無償化の議論に対応して考えられたもののようです。高校・大学の教育費用無償化というのは、子育て費用の低減による少子化対策という側面もあるでしょうが、貧困家庭の子供に対して高等教育を受けるハードルを下げるということも大きな意義ですが、「こども保険」にはそうした観点が存在しません。

(格差2:世代間格差)

また、冒頭の「財源論」とも少しかぶりますが、社会保険費用の「世代間格差」の問題も認識が少しズレているように思われます。少子化による「人口減」そのものを小泉氏らは問題視していますが、総人口が8000万人だろうが7000万人だろうがそんな国は世界中いくらでもあります。

真の問題は人口比率の歪みにより社会保険費用の現役負担が非常に重くなることであり、そのような中でさらに現役世代にのみ費用を上乗せすることは、それが保険か否かというテクニカルな議論以前に、問題のとらえ方や政策の方向感がまったく逆である、ということです。

少子化に対してはどこかで手を打つべきですが、短期的にはもはや手遅れの状況ですので、現役負担の増加を抑えることをまずは優先に、我々段階ジュニア世代を含めた人口の山が死に始めるタイミングを見計らって数十年後に対策あるいは負担を先送りにするべきかと思います。 

※参考記事:「少子化対策」にもうカネかけなくてもええやろと思う今日この頃
 http://gogotomo.ldblog.jp/archives/51068463.html

(格差3:結婚格差)

これも財源論・保険論と近い話ですが、「子ども保険は、子どもをもたない人には負担だけではないか」との批判に対し、将来の社会保障の担い手が増えればそういう人にも利益がある、と反論しています。
 
これについては、少子化対策としての効果の怪しさもあってどこまでリターンするのかとも思いますが、それ以前に、手当バラマキという使い方と合わせ、ワーキングプアなど子育て以前の結婚自体をためらう層に対する目線が欠けていると感じます。

自らの積極的な選択として独身でいたり子どもを作らなかった人に対しては「好きでやってんだからお前も世代費用負担しろ」で済ませられるかもしれませんが、不安定な労働環境で結婚さえままならない人にとって、少ない手取りを削られた上に、結婚して子供までもうけた「恵まれた」者だけが手当をもらえるという状況がどう見えるでしょうか? 

これが仮に大学無償化であれば子どもに対する直接支援として心情的に受け入れられそうな気もしますが、専業主婦も含めた自分と同じ世代の「子どものいる親」に対する手当バラマキであれば、自分なら非常に納得いかないでしょうね。被害妄想的な話に感じられるかもしれませんが、こうした層の不満拡大や社会の不安定化リスクは軽視できないと思います。


これらの深刻な政治的課題に対して「こども保険」が実現しようとする施策は何らかすってもおらず、悪く言えば「日本死ね」で盛り上がった子育て支援という政策テーマにぶっつけ合わせてみただけ、と言ってしまいたくなる底の浅さを感じます。

結局のところ、少子化対策をしたいのか保育園問題に対応したいのかあるいは教育システムに手を入れたいのか、目的も効果もハッキリしないものを「こども保険」という大衆ウケのいいネーミングでパッケージしてるだけなんですよね。中身は単なるバラマキなんですけど。ホントにこれでいいんでしょうか?


最後に
以上、「こども保険」についての厳しい批判を並べてみましたが、とはいえ「子ども世代のために」という観点で自民党若手政治家が政策提言を進めていること自体はこれまでになく素晴らしいことだと思います。

財源論として現役世代に負担が偏ることについては上記の通りどうかと感じる部分はありますが、使い道がバラマキ手当などではなく、貧困家庭の教育支援や高等教育の質の向上を通じて、次の世代がなるべく等しく厳しい時代を生き抜くことにつなげられるのであれば、個人的には実現性をとって「こども保険」でも良いと思っています。 

というわけで、財源論論争はほどほどに、集めたカネの使い道をもっと練り直して議論を進めていただきたいと期待をこめて。 



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