TPP、大筋合意となりましたね。テレビニュースなどでは、農産物が安くなる、しかし国内農家が大きな打撃をうけるといった話ばかりされてますが、この協定の日本経済とっての本当の意義はほとんど理解されていないように思われます。

多少理解ある方でも、東南アジアを含む環太平洋地域において自由貿易体制が確立されることは日本経済にとって有効、みたいな漠然とした感じで、おそらく各国関税が引き下げられるなら日本の輸出産業にとって悪くないだろう、という程度の理解じゃないですかね?

農産物?工業品輸出?いやいや、TPPの日本経済にとっての本当の意義は、「サービス・投資」分野でのルール強化ですよ。もしTPPの日本にとってのメリットは何と思いますか?と聞かれたら、ぜひカッコつけてそう答えてください。

さて、それはどうしてなのか・・・?

ここに、内閣官房TPP政府対策本部から発表されている概要資料があります。

(参考:概要目次)
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結構わかりやすく、比較的コンパクトにまとまっているので是非目を通してみればと思いますが、目次からもわかる通り、関税がどうたらという話よりも、それ以外の事業投資やサービス活動に関することを中心に、ルール分野について多く書かれています。



なぜ「サービス・投資」分野が重要なのかというのは、日本の国際収支構造から考えれば分かりやすい話で、いまや日本は物品の輸出よりも、圧倒的に海外に投資した事業からのリターン(投資収益/所得収支)で稼いでいます。


経常収支の推移 

これまで、製造業が国内人件費の高さや関税などに対応して現地生産シフトを進めていったため、海外投資が積み上がり、結果として投資収益も増えてきたわけです。そういうわけで、製造業のグローバル化対応はすでに進んでおり、各国関税の引き下げというのはもちろん悪い話ではないものの、日本の工業品輸出の流れを変えるほどのインパクトはないものと思われます。

一方、小売サービスについては、ビジネス的にはまだまだ海外展開の余地がありますが、途上国などでは様々な投資規制や、法律や運用解釈がいきなり変わってサービス展開が難しくなるかもしれないといったリスクがありました。今回のTPP締結でいきなり全てが解決されるわけではないですが、加盟各国は今回のTPP締結を踏まえ、法整備を進めていくことになります。

(ちなみに前述の概要資料では、ベトナム、マレーシアで小売流通業に係る投資規制が緩和され、日本のコンビニが進出しやすくなると考えられる事例が報告されてます。)


もうひとつ着目すべき点は、知的財産権系ルール強化です。日本の国際収支では、特許ライセンス使用料、ロイヤルティ受取などの知的財産権等使用料が近年収益を上げてきています。著作権・商標権の保護強化は、日本のコンテンツやブランドを守る上でも有意義ですので、こちらも日本の対外収支を高めるうえで意義が大きいと考えられるます。

(参考まで、同じく「平成26年中国際収支状況(速報)の概要」より)

サービス収支:▲2兆8,102億円の赤字(前年度比+6,346億円 赤字幅縮小)

「旅行収支」が昭和34年度以来55年ぶりの黒字となった。また、「知的財産権等使用料」が過去最大の黒字(平成8年度以降)となったこと等から、「サービス収支」は赤字幅を縮小した。



こうしたルール整備を通じて、日本の対外収支構造がさらに強まると期待されます。これが、今回のTPPの日本にとっての意義です。「工業でも金(カネ)、サービスでも金、知財でも金」ってな感じでお願いしたいところです。

一方、農業については個別農家への影響は大きいものの、マクロで見ればGDP1%程度しかない分野で、しかも所得補償やらが今後入れば、これまで消費者に価格で課していた分を税金に転嫁するだけで生産者側への影響はさらに軽減され、マクロで考えればメリデメを語るほどの影響はなく、マスコミが大騒ぎするほどの意義はないでしょう。


最後に、TPPで日本の国民皆保険制度が崩壊する!とか、ISD条項でアメリカに好き放題やられる、なんて煽ってた陰謀論好きな方も一時よく見かけましたが、今回の概要を見る限り、そんな話は影も形もありません。いちいち解説するのも面倒なので、概要資料から以下を抜粋して張っておきます。ウザい陰謀論者がいたら、下記を突き付けてやればよろしいかと。

それでは。


(社会保険制度について:資料21ページ)

・・・政策上、将来 にわたって規制を導入し、又は強化する必要があり得る分野については、留保することが認められている(「包括的な留保」=いわゆる「将来留保」)。包括的な留保をした分野にはラチェット条項は適用されない。

 日本は、社会事業サービス(保健、社会保障、社会保険等)、政府財産、公営競 技等、放送業、初等及び中等教育、エネルギー産業、領海等における漁業、警備 業、土地取引等について包括的な留保を行っている。 


(ISD条項について:資料19ページ) 

ISDS手続に関しては、例えば、以下のような濫訴抑制につながる規定が置かれている。 


(略) 


また、
TPP協定投資章において、投資受入国が正当な公共目的等に基づく規制措置を 用することが妨げられないことが確認されている