(注)以下は、2015年の「新年展望」のエントリの中で、別添とした参考文書ですので、単体記事としての意味はありません。
 ちなみに辞めた当時はリーマンショック前で製造業が好調、その後の派遣村やら100円切る円高やら貿易赤字なんて誰も想像してない、って感じの状況でした。


お世話になった皆様、ご縁をいただいた皆様へ


突然の連絡にて失礼いたします。

私、後々朋広は本日4月30日付けをもって経済産業省を辞職いたしました。
これまで私を育てていただいたこと、一緒に仕事をさせていただいたことに心から感謝の念をお伝え申し上げます。


平成10年の入省以来、中小企業庁総務課を振り出しに、欧州中東アフリカ課、消費経済政策課/製品安全課、米国留学を経て厚生労働省雇用政策課、貿易振興課と幅広い仕事をさせていただきました。

この中で社会人としての基礎はもちろん、グローバルなビジネスやカネの動きといった国際経済の見方、法による義務と罰則といった規制法の考え方、経済と雇用といった価値観が異なる課題を扱う際のバランス感覚、さらには離れた現場とのコミュニケーションや単純な省内調整においてさえ相手にどう接するのが最も互いに良いかといった対人間のマネジメントを学ぶ機会に恵まれた10年間でした。

10年間働く中で、私個人の思いとして日本には産業構造の変革が必要であるとの思いが強くなってきました。近隣諸国が工業的発展を加速する中、日本はいつまでもモノの輸出だけでは食って行けないだろう、では、何で国外からカネを持ってきて、どこで雇用を生み、どのようにして富を国内にまんべんなく行き渡らせるか、それが仕事上の一貫した関心でした。特に、対日直接投資については海外から資金を引っ張り込むとともに、産業構造の変革をもたらしうるものと強い思いを抱いておりましたが、幸運なことに貿易振興課において対日直接投資を担当することとなり、三角合併をはじめとした激烈な社会の変動の場に居合わせることができました。

その一方で、財界をはじめとする変化への抵抗や、多くの製造業において為替安・低金利に甘んじ労働コストの削減を追い求めるしかないような「国民窮乏化」産業となりつつ状況を見るにつけ、工場に変わる雇用の場としてのサービス産業、コスト戦略ではなく付加価値戦略を実現できる経営者がこの国には必要だと考えるようになり、今回(株)リクルートに職を得ることを決断しました。

その意味で、転職してこれまでと特段思いが変わるとの感覚はありません。皆様とは、また一緒に仕事をさせていただく機会も多いであろうと期待しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。


最後になりますが、去るにあたって3点、経済産業省の先輩・同輩諸氏にお願い申し上げたく思います。


一、「技術」に関する省内意見集約
我が国の経済戦略上、技術が強みとなることは多くの方の意見が一致するところかと思いますが、省内平均的には「技術をいかに守るか」に議論が留まっているように感じられます。権利保護を固めた上で、権利譲渡やライセンシングといった、技術をカネに変える方策まで視野に入れなければ、折角の高度技術も死蔵されるばかりです。さらに、この「技術守るべし」との考え方が、日本経済が海外になかなか開かれない最後のカギであるように思われます。一部そうした検討がなされていると耳にしておりますが、省内全体でこの点を議論し、無用な脅威論で日本が歩をとめることないよう統一見解を打ち出していただきたく存じます。

二、「日本的企業経営論」に対する戒め
財界を中心に「日本には日本独自の経営がある」と嘯く者が近頃多いように感じられます。しかし、経営には「いい経営」と「悪い経営」しかないはずです。企業が社会的存在である以上、経営の目的は企業活動を通じて社会に価値を産み出し、その対価でもって従業員の満足できる生活を支え、資金の出し手には果実を加えて資金を返す、これに尽きます。文化的な違いがあるとすれば、従業員のモチベーションの上げ方にあるかもしれませんが、従業員の性別や国籍、そもそもの働き方が多様化するなかで、文化的差違をもって「日本には日本の・・・」と主張するのは、海外とのコミュニケーションを阻害するだけの危険な「日本特殊論」に過ぎません。単純明快かつ普遍的な経営観を奨励し、世界に通じる企業経営が実践されるよう、経済産業省としては「日本的企業経営論」を戒める立場を取っていただきたく存じます。

三、国際収支への理解
最後はやや細かい話しになってしまいますが、省内における国際収支への理解を図っていただきたく存じます。私見ながら、経済政策の要諦は「入を確保し内で回す」、つまり、いかにして海外からのカネや資源の入りを確保し、流入した富を内需等で国内まんべんなく循環させるのか、その二点に尽きると思います。この経済政策の基本である二つのうち、「入の確保」については国際収支統計でデータを確認できますが、個人的実感として、省内で国際収支統計の見方を知っている者、あるいは一度でも見たことある者でさえ少ないのではないかと感じます。これは、財務諸表も見ずに経営をしているようなものです。この先、本当にモノの輸出による資金確保が細って来たとき、どういった項目・産業でどのくらいのオーダーのカネを引っ張りうるのか、債権成熟国化というマクロな経済構造変化の中で先を見据えた経済政策を打って行けるよう、「国際収支統計の見方」を全職員必須の基礎的教養となるよう図っていただければと思います。


皆様へのお礼のつもりが僭越な意見となってしまいましたが、「そういや後々ってそんな奴だったな」とご容赦頂き、記憶に留めていただけるなら幸いです。

あらためて、皆様には長らくお世話になり、本当にありがとうございました。
様々の機会には、今後ともお気軽にお誘い頂ければと存じます。

平成20年4月30日
後々 朋広